子どもに楽器を習わせるとき、「音楽を楽しんでほしい」に加えて、「頭にもよさそう」と思うことはないだろうか。譜面を読み、指を動かし、音を聴き分ける。その練習が、ほかの勉強にも役立ちそうに見える。
実際、音楽レッスン後のIQの伸びを報告した有名な実験がある。しかし、その一報で話は終わらなかった。後に研究が集まり、初期の論文を書いた研究者自身も、音楽以外の能力への効果を改めて検討している。
音楽・演劇・レッスンなしのグループを比べる
シェレンバーグの2004年の実験では、144人の子どもを、鍵盤・歌・演劇・レッスンなしの四つのグループに無作為に分け、前後でIQを測った。音楽を習った二つのグループは、音楽を習わなかったグループより総合IQの伸びが大きかった。ただし、著者はその差を比較的小さいと説明している。[1]
| 割り当てた活動 | 比較で確かめたかったこと |
|---|---|
| 鍵盤/歌 | 音楽レッスン後の変化 |
| 演劇 | 先生や仲間と活動する、音楽以外の経験との違い |
| レッスンなし | 新たなレッスンを受けない場合との違い |
音楽をすでに習っている子と、習っていない子の比較だけなら、家庭の事情や本人の興味が混じる。無作為な割り当ては、そうした違いが特定の群へ偏りにくくする工夫である。
同じ実験では、演劇の群に社会的な適応行動の改善も報告された。IQ以外の変化にも目を向けると、それぞれの活動にどんな違いがあったかを考えられる。[1]
楽器が上達することと、別の能力が伸びること
「前より弾けるようになった」は、その練習が役立ったという分かりやすい成果だ。そこから「初めて見る算数の問題まで解きやすくなった」へ進むには、音楽とは別の課題を使って、効果を確かめる必要がある。学習した領域から、離れた領域へ効果が移ることを、研究では遠い転移と呼ぶ。
レッスン後に点数が上がっただけでは、レッスンの効果とは決められない。学校で学んだり、検査に慣れたりして、対照群も上がるかもしれない。見るべきものは、それぞれの伸びと、群の間の差である。
54研究を集めると、比較相手の重要さが見えた
サラとゴベの2020年のメタ分析は、54研究、計6,984人、254の効果量を扱った。無作為割り当ての有無や対照群の種類を考慮すると、音楽訓練による認知・学業面への平均的な効果は、おおむねゼロと報告している。[2]
どちらも研究上の役割があります。実際の介入期間や内容、割り当て方法も合わせて確認します。
この報告は、すべての子どもに、あらゆる効果が絶対にないという証明ではない。まとめた研究と測定項目の範囲で、一般的な認知能力や学業への効果を強く期待する根拠が乏しい、という結果として読む必要がある。
初期の研究者は、2024年にどう読んでいるか
2024年、シェレンバーグとリマは、この分野を総説で見直した。音楽訓練が音楽以外の能力を高めるという因果的な証拠は弱い、または存在しないと評価し、もともとの個人差や、音楽に参加する人の違いを重視している。[3]
二人は、音楽への参加の社会的・感情的な側面へ目を向けることも提案した。ただし、それは今回の比較で特定の教室や教材の効果が保証されたという意味ではない。[3]
「効果ありの論文」と「効果なしの論文」を一枚ずつ並べて、引き分けにする話ではない。個々の実験から研究の集積へ進み、比較方法を厳しくしたときにも、効果が確認できるかを調べる。その過程に、この分野を読む面白さがある。
IQ以外の理由で、音楽を選んでもいい
好きな曲を自分で弾ける。誰かと息を合わせる。昨日は弾けなかった一小節が、今日は弾ける。習い事を選ぶとき、そうした楽しさや喜びも、十分な理由になる。
「楽器を習えば頭がよくなる」と約束する説明には、どんな比較で、何が、いつまで伸びたのかを聞きたい。そのうえで子どもが音楽を好きなら、その好きな気持ちも、続ける理由として大切にできる。これは論文の結論から一歩離れた、編集部の考えである。
原典・参考文献
研究結果には本文中の番号を付けています。図表は当サイトで作成し、説明用の仮定や編集部の考えは、観察された結果と区別しました。
[1] Schellenberg, E. G.(2004)
公開抄録の割り当て人数・対照条件・主要結果を確認。群別のIQ上昇点数は本文表を照合できていないため掲載していません。
Music Lessons Enhance IQ. Psychological Science, 15(8), 511–514.[2] Sala, G. & Gobet, F.(2020)
公開本文・抄録を確認。無作為割り当てと対照条件を考慮した結論を参照。
Cognitive and academic benefits of music training with children: A multilevel meta-analysis. Memory & Cognition, 48, 1429–1441.[3] Schellenberg, E. G. & Lima, C. F.(2024)
著者公開版の本文・抄録を確認。2023年オンライン先行公開、2024年巻号掲載。
Music Training and Nonmusical Abilities. Annual Review of Psychology, 75, 87–128.