01 / KNOWLEDGE基本の仕組み

IQ100は「100点満点」ではない。では、あの数字はどこから来るのか

テストで80点を取った人が、IQ115になることもある。間違いではない。IQが数えているのは、正解の数だけではないからだ。

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100点という数字に、だまされる

子どもが「テストで100点だった」と言えば、意味ははっきりしている。全部正解したということだ。では「IQ100だった」はどうだろう。100問を解いて100問正解したわけではない。むしろ現在一般的な知能検査での100は、比較に用いる集団の平均あたりを指している。

まぎらわしさには歴史的な事情がある。かつてIQは、精神年齢を実年齢で割って100倍する「比率IQ」で表すことがあった。10歳の子が、当時の検査で12歳相当とされたなら、120になるという考え方だ。しかし成長の速さは年齢によって違う。大人に「精神年齢40歳だからIQ200」といった計算を当てはめても、うまくいかない。

今日、広く使われるのは偏差IQ。同じような年齢の人たちがどう解いたかを調べ、自分の成績がその集団のどこに位置するかを数字に直す。APA(米国心理学会)の辞典でも、現在のIQは「平均からの隔たり」を表す標準得点として説明されている。1

ここで、数学に強い人なら気になる疑問が一つある。「平均が100」と決めてしまうなら、点数はいくらでも作れるのではないか。 その通り、100という単位は自然界に埋まっているものではない。体重のkgとも、長さのcmとも違う。だからこそ大切なのは、100という見た目ではなく、その値を作るために集めたデータだ。

架空の試験で、IQを作ってみる

話を単純にしよう。ある年齢の参加者が同じ問題を受け、70点が平均、点数の標準偏差が10点だったとする。「標準偏差」は、人によって点数がどれくらい散らばっているかを示す単位だ。平均70点の世界で80点を取ることは、平均から10点、つまり標準偏差一つ分だけ上にいることになる。

この点数を、平均100・標準偏差15のIQと同じ形の尺度へ移すと、表のようになる。

← 表は左右に動かせます →
問題の得点 平均との差 平均からの位置 IQ型の標準得点
50点 −20点 −2標準偏差 70
60点 −10点 −1標準偏差 85
70点 0点 平均 100
80点 +10点 +1標準偏差 115
90点 +20点 +2標準偏差 130

この架空の世界だけなら、計算はこうなる。

IQ型の標準得点 = 100 + 15 × (自分の得点 − 集団の平均点) ÷ 集団の標準偏差

80点なら 100 + 15 × (80 − 70) ÷ 10 = 115。見かけの点数を変えたのではない。「その集団の中で平均からどれだけ離れているか」を別の単位にした。

注意:これは説明用の算式であり、WAISやWISCの実際の採点表ではない。 本物の検査では、課題の得点を年齢別の規準表に照らし、換算した下位検査得点を組み合わせ、規定の手順で指標や総合得点を求める。生の点数をそのまま上の式に入れるだけではない。2

図解を表示しています。JavaScriptが無効な場合も、前後の表で数値を確認できます。

同じ20問正解でも、意味が変わる理由

思考実験を続ける。全員が同じ18問を受ける試験があるとする。Aという集団では平均10問正解、Bという集団では平均15問正解だった。あなたの正解は14問。Aでは平均より上だが、Bでは平均を下回る。正答数は同じでも、「どの位置にいるか」は変わる。

← 表は左右に動かせます →
条件 集団A 集団B
18問の平均正答数 10問 15問
自分の正答数 14問 14問
平均との関係 平均より4問上 平均より1問下
分かること この集団では相対的に高い この集団では平均に届かない

しかも、平均だけでは足りない。Aでは多くの人が9〜11問に集まっているかもしれないし、0〜18問まで広く散らばっているかもしれない。どれほど珍しい得点なのかを知るには、分布全体を見る必要がある。

これが、ネット上の「18問正解でIQ145」などの表示を、そのまま信用できない理由でもある。受験した人は何人か。どう集まったか。同じ問題を以前見ていないか。年齢はそろっているか。そこが分からないまま「IQ」と呼んでも、比較の土台がない。

「何歳の、誰と比べた100なのか」が問題になる

同じ課題なら、7歳と17歳では普通、解ける量が違う。両方を混ぜた平均に対して7歳の子どもを評価すれば、年齢による差をその人の特徴と取り違えてしまう。だから知能検査は、年齢に応じた基準を用意する。

さらに、標準化のための参加者をどう集めたかも重要だ。ある地域の進学校に通う人だけ、あるいは知能テストが趣味の人だけから平均を作ったら、それは全国の同年齢者を代表するとは言えない。研究や検査でいう標準化・規準化は、単に人数を集めることではなく、どの集団について語る数値なのかを決める仕事でもある。2

「平均100」という同じ表記にも、使われた検査、その版、基準集団、年齢区分によって違う背景がある。違う尺度の100をそのまま横並びにして、同じ測定だと決めてはいけない。

平均100・標準偏差15なら、130は何人に一人?

正規分布を仮定するという条件なら、130は平均から標準偏差二つ分上。理論上、130以上は約2.28%、44人に一人ほどになる。115以上は約15.87%、85〜115に入るのは約68.27%だ。

← 表は左右に動かせます →
境界 理論上、その値以上の割合 計算上のイメージ
100 50.00% 約2人に1人
115 15.87% 約6人に1人
130 2.28% 約44人に1人
135 0.98% 約102人に1人

ここに一つ落とし穴がある。この割合は「平均100・標準偏差15の正規分布」というモデルの面積だ。 実際の特定の検査の受検者が、どの得点でもこの割合どおりに分布するという実測報告ではない。とくに高得点域では検査の上限や得点の刻み、測定精度も関係する。

「どれくらい正確な100なのか」も聞いておきたい

身長を測るとき、足の位置や計測器でわずかに数字が変わる。知能検査には別種の不確かさがある。体調、課題の組み合わせ、測定の誤差、検査との相性。同じ人が別の日に受けても、まったく同じ結果になる保証はない。

専門的な結果報告で信頼区間や領域別得点が重視されるのは、このためだ。100という数字だけを切り出すと、精密に見えてかえって情報が減る。130と135の違いをどう読むかは、次の解説「IQ130と135」で詳しく扱う。

図形パズル18問の「IQ」は、この話とどうつながる?

当サイトには18問・15分の図形推理チャレンジがある。回答データを貯めれば、「このサイトで初回参加した人の中では何番目くらいか」を計算できるようになる。しかし、集まった人がパズル好きに偏っている可能性は消えない。参加者の分布は、一般人口の基準にはならない。

ここでは**「図形パズルの成績」と「知能検査のIQ」**をきちんと分けておきたい。遊びとしての得点の面白さを損なうためではない。得点をどう作っているかが分かった方が、その数字をもっと面白く読めるからだ。

最後に、誰かからIQの数字を聞いたときのための、短い確認表を残しておく。

← 表は左右に動かせます →
まず聞くこと それで分かること
どの検査の、どの版? 何を、どんな手順で測ったのか
何歳のとき、どの基準集団と比較? その数字の「平均100」が指す相手
総合点以外の領域別得点は? 同じ合計の内側にある違い
信頼区間・実施時の様子は? 数字の細かい差をどう扱うか

100という数字がつまらないものになっただろうか。むしろ逆だと思う。何も説明してくれない数字ではなく、説明を問い返せる数字になった。

もう一問正解したら、IQは何点上がるのか

「この問題は一問5点だから、二問多く正解すればIQは10上がる」と考えるのも危ない。標準化された検査の換算表は、単純な比例表とは限らない。易しい問題が多いところと、難しい問題しか残っていないところでは、正答数の一つの差が成績分布の中で持つ意味は変わりうる。

例えば次の二つの分布があったとしよう。どちらも18問のテストだ。全体での正答数は同じでも、上位の密集具合が違うと順位が変わる。

← 表は左右に動かせます →
架空の集団 14問正解以上だった人 15問正解以上だった人 1問の違いから分かること
参加者A・1,000人 250人 150人 14問と15問の間に100人いる
参加者B・1,000人 25人 20人 同じ1問差でも、その間には5人しかいない

これは説明用の数字で、当サイトの記録ではない。ここで言いたいのは、IQが単なる足し算の続きではないということだ。正答数の増減だけで能力が一定量変わったと判断するには、元になる分布も、その検査の得点精度も必要になる。

ちなみに、IQ型の数値を「平均100・標準偏差15」にしてしまえば、あらゆる検査の得点が完全に一致するわけでもない。何を課題に選び、どの年齢の誰で標準化したかが異なれば、同じ人でも異なる結果が出ることがある。

数字を知ると、むしろ新しい問いが増える

初めてIQを調べると、100、115、130という数字に目を奪われる。次に「この検査の100は誰の平均か」と聞く。すると、検査の課題、標準化した年、比較した集団、測定誤差という、いくつもの扉が開く。

数値は最後の結論ではなく、そこに至る測定の履歴を簡潔にまとめた記号なのだ。点数そのものを競うより、その数字が何を捨て、何を残して作られたかを読める方が、ずっと面白い。

原典・確認先

数値例と図は当サイトが作成した説明用モデル。市販検査の実際の換算表、検査問題、受験者データを転載していない。

  1. American Psychological Association, APA Dictionary of Psychology: deviation IQ, IQ。偏差IQと歴史的な比率IQの区別。
  2. National Institute of Environmental Health Sciences, Principles for Evaluating Psychometric Tests。規準集団・標準得点・検査運用条件に関する説明。

このシリーズの図表は説明用のオリジナル図、または原典に数値が記されたデータの独自作図です。研究の実測値と説明用の架空例を区別して記載しています。