並んだ記号から規則を見つける。文章の関係を読み替える。AIに問題を渡すと、答えと詳しい説明が返ってくることがある。人間には難しい課題を解けば、「このAIのIQは非常に高いのでは」と思うのも自然だ。
しかし、人間向けの検査問題に正解したことと、人間と同じ意味でIQを測定できたことは同じではない。何ができたのかを具体的に調べる価値は大きい。その価値を、性急な一つのIQ値へまとめることで失わないようにしたい。
IQの「100」は、誰と比べた数字なのか
人のIQ得点は、決められた実施・採点の条件のもとで得た成績を、基準となる人たちの分布と比べて表す。正答数をそのまま100点満点にしたものではない。詳しい仕組みはIQの基本ガイドで説明している。
AIをその表に入れるとき、いくつもの前提が変わる。年齢の区分をどうするのか。人間のために定めた制限時間と、計算資源や応答時間をどう対応させるのか。人には図で見せる課題を、AIには文章に書き直して渡してよいのか。
同じ正答数が出ても、問題の受け取り方や利用できる情報が違えば、その結果を同一の測定として扱う根拠が必要になる。ここで問うべきなのは、AIが賢く見えるかどうかだけではなく、比較の方法が妥当かどうかだ。
実際に、類推の力を比べた研究がある
Webb、Holyoak、Luの2023年の研究は、人間と、当時のGPT-3の一つの版であるtext-davinci-003を、複数の類推課題で比べた。Raven型の規則構造をもとにした非視覚的な行列課題も含まれ、AIが多くの設定で高い成績を示したと報告している。[1]
ここで大切なのは、研究が使ったのは特定のモデルと、定められた課題・条件だということだ。人間向けの正式な検査をそのまま実施して、AIに臨床的なIQ値を与えた研究として紹介するのは適切ではない。2023年の結果を、現在利用するすべてのAIへ自動的に当てはめることもできない。
答えが合うことと、同じ方法で考えたことは違う
ある規則を使えば解ける問題で、人間とAIが同じ答えを出したとする。それだけでは、内部で同じ手順を使ったとは分からない。人間同士でも、式で解いた人と、選択肢を消していった人がいる。出力された説明も、処理の仕組みを直接観察した記録とは区別する必要がある。
だから研究では、答えが合うかに加え、問題の見かけを変えても解けるか、条件を増やすとどうなるか、間違い方がどこで変わるかを調べる。正解を否定するためではなく、その成功がどこまで通用するかを知るためだ。
数字を変えたら、同じように解ける?
MirzadehらのGSM-Symbolicは、算数の文章題のテンプレートから条件を変えた問題を作り、モデルを評価した研究だ。2024年に初稿、2025年に改訂版が公開されている。数値の置き換えや、答えに不要な情報の追加などによって、対象モデルの成績が揺れることを報告した。[2]
これはIQ検査そのものの研究ではないが、「元の問題に正解した」だけでは見えない性質を確かめる例になる。一方、この結果だけで、あらゆるAIに推論能力がないと断定するのも飛躍だ。著者が提案した仕組みの説明は仮説と区別し、対象のモデル・課題・時期の範囲で読む必要がある。
| 研究 | 確かめたこと | そのままは言えないこと |
|---|---|---|
| Webbら(2023) | 特定モデルの類推課題での成績 | AIに人間と同じIQ値が付いた |
| GSM-Symbolic(2024初稿・2025改訂) | 文章題の条件変更に対する成績の安定性 | 現在の全モデルが、すべての推論に失敗する |
「AIのIQ」という見出しで、確認したい六つの条件
以下は研究結果そのものではなく、評価の説明を読むための編集部の整理だ。高い数値を見たとき、この情報が書かれているかを確かめると、比較の意味が分かりやすくなる。
| 条件 | 知りたいこと |
|---|---|
| モデル | 名称だけでなく、版・評価時点はいつか |
| 入力 | 図、文章、音声のどれで問題を渡したか |
| 手助け | 例題、追加指示、検索、計算ツールを使ったか |
| 試行回数 | 最初の回答か、複数回のうちの最良結果か |
| 問題の既知性 | 新規問題か、既知の問題との重なりをどう扱ったか |
| 比較相手 | 人間の誰に、どの条件で実施したか |
例えば、一度だけ答える人間と、何度も生成して正しいものを選べるAIを比べれば、試行回数の違いが結果に入る。逆に、AIに不利な入力形式へ問題を変えれば、元の課題と異なる負荷を加えることになる。条件をそろえられない場合も、その違いを明記することはできる。
初めて見る問いかどうかを、どう確かめるのか
公開されてきた問題を使う場合、その問題や似た解説が学習データに含まれたかどうかが論点になる。正答したという結果だけから、学習済みだったと断定することも、まったく初見だったと断定することもできない。
新しい問題を作る、数値や表現を変えた複数の版を試す、評価用のデータを分ける。こうした工夫の狙いは、特定の問題を覚えている可能性と、規則を別の問題へ使える可能性を見分けやすくすることにある。それでも完全な初見性や一般化を保証できるとは限らない。
実際に使うときは、頼みたい仕事を調べる
高い推理課題の得点があっても、自分が渡した文書を正しく要約するか、出典を確かめられるか、条件の抜けを見つけるかは、別に確認したい。逆に、特定のパズルで失敗しただけで、すべての作業に役立たないと決める必要もない。
自分で比較するなら、同じ指示・同じ資料・同じ採点観点を用意し、よい回答だけでなく失敗例も残す。ここでの目的はAIを人間の順位表に置くことではなく、何を任せ、どこを人が確かめるかを知ることになる。
高い成績の、その先を面白がる
AIが難しい問いを解くこと自体は、研究するに値する出来事だ。人の推理を考える手掛かりにも、新しい道具を作る出発点にもなる。だからこそ、「IQはいくつ」の一言で話を閉じず、どんな条件で成功し、何を変えると失敗するのかを見てみたい。
人間との共通点が見えることもあれば、違いが見えることもある。測れた範囲を具体的に書く方が、「人間より賢い」「ただ暗記している」という大きすぎる結論より、次の問いにつながる。
出典・確認した範囲
- Webb, T., Holyoak, K. J. & Lu, H. (2023). Emergent analogical reasoning in large language models. Nature Human Behaviour, 7, 1526–1541. ↗
公開抄録を確認。text-davinci-003と人間の類推課題の比較。正式なIQ値の認定とは区別。
- Mirzadeh, I. et al. GSM-Symbolic: Understanding the Limitations of Mathematical Reasoning in Large Language Models. arXiv:2410.05229v2(2024年初稿、2025年改訂). ↗
公開要約と改訂情報を確認。文章題の条件変更を扱い、IQ検査そのものの研究ではありません。
出典の確認日:2026-10-19。本文の架空例・提案・考察は編集部によるものです。研究結果や団体の公式説明とは区別して記載しています。